全世界的人気のハイテクスニーカー、ブームの発端は? 日本では東日本大震災、海外では9.11&コロナ禍⁉︎

街を歩けば、厚底でクッション性の高いスニーカーや、トレイルランニング用のようなゴツめのシューズを履いている人を見かけることが増えました。

かつては「スポーツをするときに履くもの」というイメージが強かったハイテクスニーカーですが、今では通勤やショッピング、旅行、街歩きなど、日常生活のさまざまな場面で活躍しています。

特に近年は、HOKAやOn、ASICS、New Balanceなど、機能性を前面に打ち出したブランドやモデルがファッションの世界でも存在感を高めています。

では、なぜ今、世界中で「歩きやすい靴」がこれほど支持されるようになったのでしょうか?

実は、その背景には単なるファッショントレンドだけではなく、災害、都市生活、通勤、働き方、健康意識など、人々の生活そのものの変化があります。

「きれいに見える靴」から「歩ける靴」へ。そして「歩ける」から「疲れにくい」「身体にやさしい」へ。

今回は、日米の出来事を起点に、世界でハイテクスニーカーが受け入れられるようになるまでの、靴に対する意識の変化をたどります。


① 🇯🇵 東日本大震災で実感した「歩ける靴」の重要性

日本で「歩ける靴」の必要性が多くの人に強く意識された出来事のひとつが、2011年3月11日に起きた東日本大震災です。

震災当日、首都圏では鉄道が大きく乱れ、多くの人が帰宅困難者となりました。

普段なら電車やバスで帰るはずのところを、交通機関が使えないため、自分の足で歩いて帰らざるを得ない。

そこで改めて問題になったのが、女性の足元でした。

普段の通勤では、パンプスやハイヒールなど「きちんと見える靴」を履いていても、長距離を歩くことには適していません。

実際、震災時にハイヒールやブーツで歩く女性の姿が見られ、「会社に歩きやすい靴を置いておく」といった防災対策が意識されるようになりました。

つまり震災は、

「通勤靴は、きちんと見えることだけが重要なのではない」

ということを、多くの人が身をもって知るきっかけになったのです。


② 「防災用の靴」から「普段から歩ける靴」へ

東日本大震災をきっかけに広がったのは、単なる防災意識だけではありません。

「もし電車が止まったら?」

「もし長距離を歩かなければならなくなったら?」

という視点が、日常の靴選びにも入り込むようになりました。

会社にスニーカーを置いておく。

通勤時にはパンプスではなく、歩きやすい靴を履く。

ヒールの低い靴やフラットシューズを選ぶ。

こうした行動の背景にあるのは、

「靴は非常時に自分を守るものでもある」

という考え方です。

そして、ここからもう一つ重要な変化が起こります。

それは、災害のときだけではなく、普段の生活でも「歩けること」が重要なのではないかという気づきです。

駅まで歩く。

乗り換えで長い距離を歩く。

駅から会社まで歩く。

仕事のあとに買い物をする。

そう考えると、私たちは思っている以上に毎日、自分の足で移動しています。

「非常時に歩ける靴」は、そのまま「毎日歩きやすい靴」でもあったのです。


③ 🇺🇸 アメリカではノースリッジ地震が「通勤靴」を変えた

一方、アメリカでも、都市災害をきっかけに「歩ける靴」の重要性が意識された例があります。

1994年にロサンゼルスを襲ったノースリッジ地震です。

地震によって道路や交通インフラが大きな影響を受け、公共交通機関を利用する人にとって、徒歩での移動がより現実的な選択肢となりました。

当時の『Los Angeles Times』の記事では、地震後に公共交通機関で通勤する女性たちの間で、Reebokなどのアスレチックシューズが選ばれるようになったことが紹介されています。

さらに象徴的なのが、

「通勤はスニーカー、仕事はパンプス」

というスタイルです。

つまり、自宅から会社までは歩きやすいスニーカーを履き、会社に着いたら仕事用の靴に履き替える。

これは「スニーカーで仕事をする」という発想とは少し違います。

むしろ、

「移動中まで、仕事用の靴を履く必要はない」

という合理的な考え方だったのです。


④ 🇺🇸 9.11で再認識された「都市では自分の足で移動することがある」

そして2001年9月11日、アメリカでは同時多発テロが発生しました。

ニューヨークの高層ビルから多くの人が階段を使って避難しました。
9/11メモリアル・ミュージアムには、避難時に履いていた女性のハイヒールが収蔵されています。

その一人、Linda Raisch-Lopezさんは、サウスタワー97階から避難する際にヒールを脱いで階段を下り、その後、フェリー乗り場まで約3.5マイル歩きました。足には切り傷や血豆ができていたと記録されています。

さらに別の女性は、避難途中でスニーカーを配っていた靴店を通り過ぎ、ヒールのままWTCからブルックリンまで歩いています。

9.11が「スニーカーブームの直接的なきっかけ」とするわけではありませんが、
大都市で暮らし、働く人々にとって、

「交通機関が止まったらどうする?」

「都市で災害や緊急事態が起きたら、どう避難する?」

という問題を改めて意識させた出来事だったことは確かです。

高層ビル、地下鉄、道路などが複雑につながる大都市では、非常時には徒歩で移動しなければならない可能性があります。

こうした経験の積み重ねによって、

「都市生活では、自分の足で移動できることが意外と重要」

という認識が強まっていきました。

日本の東日本大震災とアメリカの都市災害。

背景は異なっていても、そこから浮かび上がったのは、

「靴には、歩けるという基本的な機能が必要」

という共通した価値観でした。


⑤ 🌍 世界の都市生活で「歩くこと」が当たり前に

そして、ここから災害とは別に日常生活にも目を向けてみましょう。

欧米の大都市では、地下鉄やバスなどの公共交通機関と徒歩を組み合わせて移動する生活が一般的です。

駅まで歩き、地下鉄に乗り、乗り換え、さらに会社まで歩く。

仕事が終われば、街を歩いて買い物をしたり、レストランへ行ったりする。

旅行となれば、さらに歩く距離は増えます。

つまり都市生活では、

「毎日かなりの距離を歩く」

ことが珍しくありません。

そうなると、靴に求めるものも変わります。

「きれいに見えるか」

「フォーマルか」

だけではなく、

「長時間歩いても疲れないか」

ということが重要になってくるのです。


⑥ 👠 「通勤はスニーカー、会社でパンプス」という合理的な選択

こうして生まれたのが、いわゆる「スニーカー通勤」です。

ただし、ここで押さえておきたいのが、スニーカー通勤は必ずしも「スニーカーを仕事靴にする」ということではなかった点です。

以前から、

自宅 → スニーカー

通勤

会社 → パンプスに履き替える

仕事

退勤 → スニーカー

というスタイルが存在しました。

このスタイルが示しているのは、

「移動するときは歩きやすい靴を履きたい」

という、とてもシンプルなニーズです。

つまり、スニーカーは最初から「仕事用の靴」として受け入れられたわけではありません。

まず、

「移動するための靴」

として市民権を得ていったのです。

これは、その後のスニーカーの地位を考えるうえで非常に重要なターニングポイントになっていきます。


⑦ 🦶 「歩ける」から「疲れにくい」へ。靴に求める機能が進化

2010年代に入ると、靴に求められる機能はさらに細かくなっていきます。

単に「ヒールが低い」「歩きやすい」というだけではありません。

クッション性。

軽量性。

安定感。

衝撃を吸収する構造。

足をしっかり支える設計。

長時間歩いても疲れにくいこと。

こうした機能が、靴選びの重要なポイントになっていきます。

ここで起こったのが、

「ラク=おしゃれを諦めること」

という考え方からの変化です。

以前なら、「おしゃれだけれど少し痛い靴」を我慢して履くことも珍しくありませんでした。

しかし、

「毎日履くものなのだから、ラクなほうがいい」

「長時間歩くなら、足に負担の少ない靴がいい」

という考え方が少しずつ広がっていきます。

つまり、快適性そのものが靴の価値になっていったのです。


⑧ 🌎 コロナ禍で決定的に変わった「靴は我慢して履くもの」という常識

そして、世界の靴に対する価値観を大きく変えたのが、新型コロナウイルスのパンデミックです。

リモートワークが急速に普及し、それまで当たり前だった通勤スタイルが一変しました。

スーツを着る必要がない。

毎朝パンプスを履く必要もない。

革靴を履いてオフィスへ向かう必要もない。

自宅で仕事をする生活を経験したことで、多くの人が「快適な服装で仕事をする」ことに慣れていきました。

そして重要なのは、コロナ禍が終わったあとです。

通勤や出社が戻ってきても、以前の服装や靴に完全には戻らなかったのです。


⑨ 「なぜ、靴だけは我慢しなければいけないの?」

コロナ禍を経て、人々の価値観には大きな変化が起こりました。

それまで、

仕事だからきちんとした靴を履く

ことが当然だったのが、

「きちんと見えること」と「快適であること」は両立できるのでは?

という発想へ。

「仕事だからパンプス」

「仕事だから革靴」

という固定観念が弱まり、スニーカーを仕事に取り入れることへの抵抗感も薄れていきました。

日本でもポストコロナのビジネスシーンでスニーカーを履く人が増え、快適性や実用性を重視する傾向が見られています。

つまり、以前は、

通勤時はスニーカー
→会社でパンプスに履き替える

だったものが、

通勤もスニーカー
→会社でもスニーカー
へ。

「移動用の靴」と「仕事用の靴」の境界線が、少しずつ消えていったのです。


⑩ 🧘‍♀️ 「快適に過ごすこと」そのものが価値になった

こうした変化の背景には、靴だけではなく、生活全体における価値観の変化もあります。

近年は、健康やウェルネスへの関心が高まり、

「できるだけ歩く」

「日常的に体を動かす」

「身体への負担を減らす」

といった考え方が広がっています。

そこで改めて見直されたのが、足元です。

歩くためには、歩きやすい靴が必要。

長時間歩くなら、クッション性の高い靴がいい。

毎日履くなら、疲れにくい靴のほうがいい。

つまり、

「快適に過ごすこと」そのものが、生活の質を高める

という考え方です。

かつてのファッションでは、「美しく見えるためなら多少の我慢は仕方ない」という価値観もありました。

しかし今は、

「なぜ、おしゃれのために痛い思いをしなければならないの?」

という疑問が生まれています。


⑪ 👟 そして「普通のスニーカー」から「ハイテクスニーカー」へ

ここで、現在のハイテクスニーカー人気につながります。

人々が求めるものが、

「スニーカーなら何でもいい」

ではなく、

「できるだけ快適で、できるだけ疲れにくい靴がいい」

へと変化したからです。

そこで注目されるようになったのが、スポーツシューズの技術を取り入れた高機能スニーカーです。

厚みのあるクッション。

衝撃を吸収するソール。

軽量な素材。

足を安定させる構造。

長時間の歩行や運動を想定した設計。

つまり、これまでスポーツ選手やランナーのために進化してきた技術が、日常生活にも求められるようになったのです。

「スポーツのための機能」から「毎日を快適に過ごすための機能」へ。

これが、ハイテクスニーカーの大きな転換点といえるでしょう。


⑫ 🌏 世界的なハイテクスニーカーブームは「歩くこと」の再評価から始まった?

ここまでの流れを整理すると、世界で起きた変化は一つにつながっています。

日本では、

東日本大震災

電車が止まる

自分の足で帰宅する

歩ける靴の重要性を実感

アメリカでは、

ノースリッジ地震・9.11

都市の交通・避難への意識

歩いて移動する可能性を再認識

歩ける通勤靴へ

そして世界の都市では、

徒歩+公共交通機関

毎日の移動距離が長い

疲れにくい靴が必要

さらに、

通勤スニーカー

移動中は快適な靴を履く

「歩くための靴」が定着

そこへ、

コロナ禍

リモートワーク・カジュアル化

「なぜ靴だけ我慢するの?」

快適性の価値が上昇

という変化が加わりました。

そして現在は、

「歩ける」

「疲れにくい」

「身体をサポートしてくれる」

「高機能であること自体が価値」

へと進化しています。


「おしゃれのために我慢する」から「快適であることもおしゃれ」へ

ハイテクスニーカーの世界的な人気を、単なるファッショントレンドとして見ると、その背景は少し見えにくくなります。

しかし、日本の東日本大震災、アメリカのノースリッジ地震や9.11、そしてコロナ禍などを経て、人々の靴に対する価値観が変化してきたと考えると、現在のブームがより分かりやすくなります。

「もしものときに歩ける靴が必要」

という防災意識から始まり、

「毎日の通勤でも歩きやすい靴がいい」

という合理性へ。

さらに、

「長時間履くなら、疲れにくいほうがいい」

という身体への意識へ。

そしてコロナ禍を経て、

「そもそも、なぜおしゃれのために靴を我慢して履かなければならないの?」

という価値観へ。

こうして、かつては「スポーツ用」「カジュアル用」と考えられていたスニーカーが、日常生活の中心的な靴になっていきました。

そして今、人々が選び始めているのは、ただのスニーカーではありません。

より歩きやすく、より疲れにくく、より身体をサポートしてくれるハイテクスニーカーです。

つまり、世界的なハイテクスニーカーブームの背景にあるのは、単なる「スニーカー人気」ではなく、

「見た目のために足元を我慢する」価値観から、「快適に歩けることも、おしゃれの一部」と考える価値観への変化。

そう考えると、現在のハイテクスニーカー人気は、一過性のトレンドというより、私たちの暮らし方そのものが変わったことの表れといえるようです。